交通事故に遭ってしまったときには、必ず警察を呼ぶ必要があります。
加害者から「警察を呼ばないでほしい」と頼まれることもありますが、もし呼ばなかったら、不利益を受けるのは被害者です。
ただ、あなたは、具体的にどのような不利益が及ぶのか理解できているでしょうか?
また、加害者にとっても、警察を呼ばないと問題があります。
そこで今回は、交通事故に遭ったときに必ず警察を呼ぶべき理由を解説します。
1.事故現場で警察を呼ばないパターン
交通事故に遭ったら、当然警察に届け出るものだと思っている方が多いでしょう。
しかし、実際には加害者に頼まれて、届出をしないことがあります。
加害者が「この場で示談してほしい」と言ってくるためです。
たとえば、加害者は「今、〇〇円支払うから、これですべて終わらせてほしい」と言ってくることがあります。
また「警察を呼んだら、いろいろと面倒なので、今ここでお金を払って終わらせましょう」などと言ってくることもあります。
もし、被害者のケガの程度が酷かったら、そのような言葉に応じることはないでしょう。
そうではなく、すりむいただけの軽傷や、ケガをしていない場合、被害者としてはどう考えるでしょうか?
相手が、それなりの金額の提示をしてきたら、「別にいいか」と思ってしまうかもしれません。
しかし、実際にこのとき示談してしまったら、被害者は後に大きな不利益を受けるおそれがあります。
2.被害者が警察を呼びたくない理由
それでは、加害者はどうして警察を呼びたくないのでしょうか?
それは、交通事故にもとづく責任を免れたいからです。
2-1.運転免許の点数加算を避けたい
交通事故を起こしたとき、警察を呼んで対応してもらったら、加害者の運転免許の点数が上がってしまいます。
これは、交通事故の加害者に課される行政罰です。
運転免許の点数が上がると、加害者の免許が停止されたり、免許取消になってしまったりするおそれがあります。
いったん免許を取り消されたら、免許の欠格期間が発生して、その間免許を取得することができなくなります。
たとえば、加害者がタクシー運転手やトラック運転手などの場合には、免許が無くなると死活問題ですから、必死で点数のアップを防ごうとします。
そして、警察を呼ぶと、交通事故として認定されるため、事故の内容によって免許の点数が加算されてしまいます。
人身事故の場合、必ず点数加算があり、死亡事故の場合には免許取消になることもあります。
物損事故の場合には、基本的に免許の点数が加算されませんが、飲酒運転などの違反行為があったら大きな点数が加算されます。
このような職業ドライバーでなくても、免許停止がぎりぎりになっている場合などには、何とか点数アップを防ぎたいと思うものです。
このように、加害者は事故を起こしたとき、運転免許の停止や取消処分をおそれて警察に届けないでほしいと言ってくるのです。
2-2.刑事責任を恐れる
加害者が、刑事責任をおそれるパターンもあります。
交通事故の中でも、人身事故を起こしたら、加害者には過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪が適用されて、懲役刑や罰金刑を受けるおそれがあります。
特に、危険運転致死傷罪が適用されると、必ず懲役刑になるので、大変大きな影響が及びます。
また、お酒の入った状態で運転をしていたりスピード違反をしていたりすると、さらに重い罪になってしまうこともあります。
そこで、事故時に飲酒した状態だった加害者などは、必死で警察を呼ばないでほしいと言ってくることがあるのです。
2-3.民事賠償のごたごたを避けたい
加害者が自動車保険に加入している場合、民事的な損害賠償は自動車保険が行います。
ただ、保険会社を使うと、保険会社とのやり取りがいろいろと発生して面倒だと感じる人もいます。
また、保険に加入していない場合には、どちらにしても自腹で賠償金を支払わないといけないので、その場で適当にお金を払うことにより、早めに解決してしまった方が良いと考えます。
後になると、被害者から「実はケガをしていた」とか「意外と治療費がかかった」とか「後遺障害が残った」などと言われて、高額な請求をされるかもしれないからです。
このように、加害者は、被害者に対する賠償金支払い額を下げるため、その場で示談したいというケースもあります。
以上のように、加害者が警察を呼びたくない理由は、すべて加害者の一方的な都合によるもので、被害者にとっては良いことなど1つもありません。
3.警察を呼ばないと、法律違反になる!
3-1.物損でも人身事故でも警察への報告義務がある!
それでは、交通事故が起こったとき、警察を呼ばなくて良いものなのでしょうか?
警察を呼ばないことの問題点を確認しましょう。
実は、道路交通法上、交通事故を起こした場合の警察への報告義務が定められています。
具体的には、「交通事故時に車両を運転していた人や乗務員」が、警察を呼ばなければならないとされています(道路交通法72条1項)。
ここで、交通事故とは、車両の交通によって人が死傷したり物が壊れたりした場合の事故とされています。
ここでは、人身事故と物損事故の区別はされていません。
そこで、交通事故を起こしたら、人身事故であっても物損事故であっても、必ず警察を呼ばないといけないのです。
もし警察を呼ばなかったら、道路交通法違反となり、3カ月以下の懲役及または5万年以下の罰金刑が科される可能性があります。
3-2.被害者にも、警察への報告義務がある!
また、道路交通法上警察への届出義務を負うのは、「交通事故時に車両を運転していた人や乗務員」であり、特に加害者と被害者を区別していません。
そこで、被害者の立場であっても、もし自分が自動車その他の車両を運転していたのであれば、被害者の方にも警察への届出義務があることになります。
自動車同士の事故やバイク事故などの場合、被害者であっても警察への届出義務があるということです。
そこで、このような刑事責任の観点からしても、やはり「事故時に警察を呼ばない」ことは大間違いだということになります。
その場で相手の言葉に乗って、「それなりにお金を払ってもらえるから、警察を呼ばずに示談してもいいか」などと考えていると、被害者にまで責任が及ぶ可能性があるので、十分注意が必要です。
4.交通事故証明書が発行されないことの、問題点
被害者が加害者の要請に応じて警察を呼ばないと、「交通事故証明書」が発行されないことも重大な問題です。
交通事故証明書とは、交通事故が起こったことの公的な証明書類で、交通事故現場や事故発生日時、事故の当事者や保険会社名(自賠責及び任意保険)などの情報が記載されています。
交通事故に関係する各種の手続きを行うときに、事故証明書が必要となります
4-1.相手の任意保険会社への請求ができない
交通事故証明書が発行されないと、どのような問題が起こるのでしょうか?
ここでもっとも重大な問題は、保険金の請求ができないことです。
交通事故で被害に遭ったら、相手の保険会社に対し、賠償金の支払請求をすることができます。
そこで、車の修理費用などの物損や、ケガ、死亡などについての人身損害について、補償を受けることができます。
しかし、保険金の請求のためには、基本的に事故証明書が必要です。
どうしても事故証明書を提出できない場合には、「人身事故交通事故証明入手不能届」を提出することなどによって保険金の支払いを受けられることもありますが、「警察を呼ばなかったから交通事故証明が発行されない」などという理由では、相手は保険金の支払に応じてくれないでしょう。
そうなると、加害者本人に賠償金を請求するしかなくなります。
しかし、加害者は「あのとき示談した」と言って支払いに応じない可能性が高いですし、そうでなくても「お金がないから支払えない」と言われたり、無視されて連絡がとれなかったりすることも多いです。
4-2.相手の自賠責保険に対する保険金の請求ができない
交通事故証明書が発行されないと、相手の自賠責保険に対する請求もできません。
自賠責保険は、必ず加入しなければならない強制加入の保険で、交通事故が起こったときには、最低限自賠責保険からの補償を受けられるシステムになっています。
しかし、自賠責保険の請求をするためには、交通事故証明書が必須です。
これがないと、最低限の補償である自賠責保険の保険金すらもらえないので、被害者は大きな不利益を受けます。
4-3.自分の任意保険会社からの補償を受けられない
交通事故証明書がないと、自分の任意保険会社に対しても、保険金の支払を請求することができません。
たとえば自分の自動車保険において、搭乗者傷害保険や人身傷害補償保険に加入している場合、交通事故で死傷した場合に保険金の支払いを受けることができます。
しかし、交通事故証明書がないと、自分の任意保険会社においても「事故があった」という扱いをしてくれないので、何の補償も受けることができない可能性があります。
4-4.弁護士費用特約を使えない
交通事故証明書がないと、弁護士費用特約も利用できない可能性が高いです。
弁護士費用特約とは、交通事故問題への対処のためにかかった弁護士費用を、保険会社が補填してくれる特約です。
自分が任意保険に加入するときに、特約としてつけておくものです。
通常の事故のケースであれば、弁護士費用特約によって保険会社が弁護士費用を負担してくれるので、被害者の負担がなくなって大きなメリットがあります。
しかし、弁護士費用特約も保険の1種なので、交通事故証明書がないと、事故扱いにしてもらうことができず、適用を受けられません。
結果的に、対応を弁護士に依頼することもできなくなってしまいます。
4-5.後遺障害の認定を受けられない
交通事故で加害者に対し、高額な賠償金を請求するためには「後遺障害の等級認定」が非常に重要です。
後遺障害というのは、事故が原因で残ってしまった後遺症のことです。
後遺障害が残ったら、その内容や程度に応じて、相手に対し、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することができます。
ただ、後遺障害に関する賠償金を請求するためには、正式に後遺障害として認定してもらう必要があります。
その認定制度が「後遺障害の等級認定」です。
ところが、後遺障害の等級認定を行っているのは、相手の自賠責保険と認定を行う損害保険料率算定機構という機関です。
これらに対する請求を行うためには、やはり交通事故証明書が必要です。
そこで、交通事故証明書がないと、後遺障害等級認定も受けられず、必要な賠償金を受けとることができなくなるおそれが高くなります。
4-6.治療費が全額自腹になる
交通事故では、事故時に目立った外傷や自覚症状がなくても、後日痛みやしびれなどの書状が出てくるケースがあります。
その場合、当然病院に通院して治療を受けなければならないので、治療費がかかります。
通常なら、こうした治療費は、加害者である相手に支払い請求することができます。
しかし、交通事故証明書がないと、相手の保険会社からも自分の保険会社からも、必要な保険金の支払を受けることができなくなります。
また、加害者に請求をしても、支払に応じないことが多いでしょう。
そうなると、必要な治療費は、被害者が自腹で負担しなければならないのです。
治療期間が予想外に長くなることなどもありますが、その場合、被害者の負担は非常に重いものとなります。
5.実況見分調書が作成されないことの、問題点
警察に届出をしない場合、実況見分調書が作成されないことも問題です。
実況見分調書とは、警察が、交通事故現場において、被害者と加害者の立ち会いの下に実況見分(現地の状況を調べること)して、その結果を書類にまとめたものです。
物損事故の場合には作成されず、人身事故のケースのみにおいて作成されます。
ただ、警察に届出をしないと、事故現場に警察が来ないために、実況見分が行われることがなく、実況見分調書が作成されません。
そして、実況見分調書が作成されないと、被害者にとって大きな不利益が及ぶおそれが高いです。
以下で、その内容を確認しましょう。
5-1.実況見分調書と過失割合の関係
交通事故が起こったら、「事故の状況」が問題になることが多いです。
それは、事故状況が過失割合の認定に関係するためです。
過失割合とは
交通事故に遭って加害者に賠償金の請求をするとき、被害者と加害者の「過失割合」を決めます。
過失割合とは、事故の結果に対する加害者と被害者の責任の割合です。
多くの交通事故では、被害者であっても過失が0にはならず、一定の過失割合を割り当てられるのです。
たとえば、加害者対被害者の過失割合が、9:1とか8:2などとなります。
そして、被害者に過失割合があると、その分相手に請求できる金額が減らされてしまいます。
被害者にも責任があるなら、その分被害者にも損害を分担させるのが公平だからです。
このように、過失割合に応じて損害賠償金を減額することを「過失相殺」と言います。
被害者の立場からすると、過失割合が大きくなったら請求金額が減ってしまうので、できるだけ過失割合を小さくしたいと考えます。
過失割合算定には、実況見分調書が重要!
過失割合を適切に算定するためには、加害者と被害者のどちらにどれだけの責任があるのかを決めなければなりません。
そのためには、事故状況を明らかにする必要があります。
ここで、事故状況を明らかにするのに役立つのが、実況見分調書です。
実況見分調書は、事故直後に被害者と加害者の双方の立ち会いのもとに、警察が作成した書類なので、非常に信用性が高く、効果的な事故状況の証拠とされます。
5-2.過失割合を高くされてしまうおそれがある
実況見分調書がないと、事故の正確な状況を立証することができません。
そこで、相手が事故状況について嘘を言って、自分に有利になるように主張している場合、その嘘を崩す方法がなくなってしまいます。
たとえば、事故時、相手が高スピードで飛び込んできたにもかかわらず、後日の示談交渉の際には、「自分は制限速度を守っていた。
被害者が突然飛び出してきたから当たってしまった」などと言われることもあるのです。
信号の色について嘘をつかれることもあります。
こんなとき、事故直後に実況見分調書が作成されていたら、調書に事故直後の加害者の指示説明が記載されていることにより、加害者の嘘を崩して事故の正確な状況を明らかにすることができます。
これに対し、実況見分調書がないと、こういった証明ができないため、他の方法で事故状況を証明するしかなくなります。
運良くドライブレコーダーなどがあって、事故状況が写っていたら良いですが、そういった事案ばかりでもないでしょう。
そうすると、証拠もなく、相手との単なる言い合いの状態になり、延々と示談できなくなってしまいます。
最終的に、「正確な状況はわからないから、お互いに譲りましょう」ということになり、本来よりも被害者側の過失割合を上げられてしまうことも十分にあります。
すると、過失割合によって、大きく賠償金を減らされてしまいます。
このように、実況見分調書が作成されないと、過失割合を下げられて、相手に請求できる賠償金の金額が減ってしまうおそれが高い点が、被害者にとって大きな不利益となります。
6.事故現場で示談することの問題点
加害者から「警察を呼ばないでほしい」と頼まれるとき、加害者は「この場で示談したい」と言ってくることが多いです。
被害者の立場からしても、お金も払ってもらえないのに警察を呼ばずに済ます気持ちにはなれないでしょう。
その場でお金をもらって示談すると、何か問題があるのでしょうか?以下で、確かめていきましょう。
6-1.事故現場で示談したら有効なのか?
まず、「事故現場で当事者が勝手にしてしまった示談が有効なのか?」と疑問に思われるかもしれません。この点、事故現場で行った示談も有効です。
示談というのは、被害者と加害者が交渉をして、損害賠償の方法について話し合うことです。
そこで、特に保険会社が入らなくても、事故当事者本人らが納得しているのであれば、示談は有効になるのです。
示談の時期も、いつにしなければならないという制限はありません。
そこで、事故現場で警察を呼ばずに、加害者の言う金額で示談をしてしまったら、基本的にその後はそれ以上の金額を請求することはできなくなってしまいます。
6-2.人身事故だった場合でも、治療費等を請求できない
その場で示談するケースは、物損事故の場合も多いです。
軽い物損なら、その場で示談して終わってしまおうという気持ちになりやすいからです。
しかし、事故現場では痛みなどを感じなくても、後日痛みなどが出てくる場合もあります。
その場合、本来は人身事故なので、治療費や通院交通費、慰謝料などを請求できるはずです。
しかし、事故現場で示談してお金を受けとってしまっていたら、すでに賠償問題は解決済みということになってしまい、必要な治療費等の請求ができない可能性が高いです。
被害者は自腹で治療をしなければならないので、大きな不利益が及びます。
6-3.意外と重傷だった場合に、慰謝料等を請求できない
事故現場でケガをしていても、軽傷のケースがあります。
たとえば軽い打撲などの場合です。
しかし、事故当時は軽いケガだと思っていても、帰宅してよく見てみたら、意外と重傷だったというケースもあります。
事故当時は興奮状態になっていて痛みなどを感じにくくなっているので、気がつかないことがあるのです。
このように、後から意外と重傷だと気づいても、先に示談してしまっていたら、その分の治療費や慰謝料を請求できなくなってしまい、大きな不利益が及びます。
6-4.後遺障害が残った場合に、後遺障害に関する賠償金を請求できない
より重大な問題があるは、後遺障害が残ったケースです。
事故に遭うと、さまざまな後遺障害が残ることがあります。
たとえば、追突事故に遭った場合には、後日むちうちの症状が出てくるケースが多いです。
むちうちの場合にも、事故当時には自覚症状がないことがあるので、事故時は「物損」だと思ってしまうこともあります。
ところが、いったんむちうちになってしまうと、なかなか治らず後遺障害が残ってしまうこともよくあります。
その場合、本来なら後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することができて、高額な賠償金を獲得できるのですが、事故現場で示談すると、そのとき受けとった僅少な金額がすべてになってしまいます。
7.事故現場で作成される可能性のある書類と示談の有効性
事故現場でお金の授受を行うとき、何の書類も作成しなくてもその示談は有効なのでしょうか?
また、事故現場では、加害者からさまざまな書類の差し入れを要求されることがあるので、こうした書類の効果を把握しておく必要があります。
そこで以下では、事故現場で作成される可能性のある書類とその効果について、ご説明します。
7-1.何も書類を作成しなかったとき
まずは、何の書類も作成しなかったケースを考えてみましょう。
たとえば、口約束で、相手が「今〇〇万円支払うから、示談してほしい」と言ってきたとして、そのお金を受け取っただけの場合です。
この場合、法律的には示談が成立していることになります。
法律上、示談は合意によって当然に成立するものであり、書面の作成は不要だからです。
ただ、示談書などの書類がないと、示談が成立したという証拠がありません。
そこで、本当に何の書類も作成せずに示談をしてお金を受けとったとしても、
後に「そんなお金は受けとっていない」とか
「お金は受けとったが、お見舞い金の意味であり、示談金ではない」
「示談金として受けとったけれども、それは一部という話であり、全額の支払いではない」
などと言うと、相手はそれ以上「示談が成立した」とは言えないことになります。
7-2.領収証を発行したとき
それでは、相手からお金を払ってもらったけれども、その金額についての領収証を発行した場合には、どのような取扱になるのでしょうか?
この場合、領収証に記載した金額を受けとったことは、確実になります。
ただ、それによって示談が成立したとまでは言えません。
また、そのお金がどのような趣旨で渡されたのかについても、明らかにならない可能性があります。
たとえば「交通事故の示談金の一部として」と書いてあったら、そのお金は示談金の一部になるので、後に示談をするときに差し引かれることになるでしょう。
これに対し「お見舞い金として」と書いてあったら、示談金とは異なるので、後に示談するときに影響はありません。
問題は、何も記載されていなかったときです。
その場合、示談金から差し引くべきお金かどうか(示談金の先払いだったのかどうか)が後から大きな問題になってしまいます。
このことが原因で示談がなかなか成立せず、トラブルが拡大する可能性もあります。
7-3.免責証書を作成したとき
次に、「免責証書」を作成したときには、どうなるのでしょうか?
免責証書というのは、「〇〇円の授受により、相手を免責する」と記載して被害者が署名押印する書類です。
加害者が、事故現場においてお金を渡してきて、こういった内容の免責証書にサインしてほしいと言ってくることがあります。
ここで、「免責」というのは、相手の責任を免除するという意味です。
そこで、免責証書に署名押印をしたら、被害者はその金額で加害者を許したこととなり、それ以上には賠償金を請求できなくなってしまいます。
7-4.示談書を作成したとき
それでは、事故現場で「示談書」を作成してしまった場合の効果はどうなるのでしょうか?
示談書は、損害賠償金の金額を明らかにして、その金額で賠償を行うことを被害者と加害者が了承し、署名押印した書類です。
示談書は、損害賠償金の支払いについて合意したことの証明資料です。
そこで、示談書が作成されてしまったら、もはや被害者は加害者に対し、賠償金の請求を行うことができません。
タイトルが「合意書」となっていても、同じ意味を持ちます。
7-5.印鑑を押していない書類の有効性
事故現場で「免責証書」や「示談書」を作成してしまったら、基本的にそれ以上の賠償金の請求ができなくなってしまいます。
ただ、被害者が署名だけをして押印していない場合があります。
押印していない示談書も有効なのでしょうか?
これについては、有効になるケースとならないケースがあります。
先にも説明した通り、示談自体は話合いで合意した時点で成立するので、本来は示談書がなくても示談は有効なのです。
しかし、示談書がないと、示談が成立したという証明ができないので、示談書を作成します。
ここで、印鑑を押しておらず、署名しかしていない場合、本当に被害者と加害者本人が作成したものかどうか判明せず、信用性が低くなります。
被害者が「署名していない」「合意していない」などと言った場合、加害者が勝手にねつ造したものである可能性が払拭できないので、示談書としては有効にならない可能性が十分にあります。
しかし、反面、有効とみなされてしまうおそれもないわけではありません。
そこで、交通事故現場では、加害者からどのような書類への署名押印を求められた場合はもちろんのこと、「署名だけで良い」と言われた場合にも、絶対に応じてはいけません。
まとめ
今回は、交通事故に遭ったときに必ず警察を呼ぶべき理由について、解説しました。
警察を呼ばないと、道路交通法違反になりますし、交通事故証明書が発行されず、実況見分調書も作成されないので、被害者にとっては大きな不利益があります。
その場で示談することにも問題が多いです。
事故に遭ったら、必ずすぐに警察を呼んで対応してもらうことが大切です。