交通事故に遭ったとき、相手が大人とは限りません。
未成年者が加害者の場合、相手に十分な支払能力がないことも多いです。
そんなとき、誰に賠償金の請求をすることができるのでしょうか?
今回は、未成年者が加害者の事故での対応方法をご説明します。
1.未成年者は損害賠償責任を負うのか?
交通事故で、加害者(相手)が未成年者だった場合、どのような問題があると思われるでしょうか?
もし、相手が保険を利用できるケースであれば、保険会社が対応してくれるので、通常通り保険会社と示談交渉をして、交渉が成立したら示談金を受けとることができます。
これに対し、未成年者が、親の車を勝手に運転していたケースなどで、保険が使えないこともあります。その場合、誰に賠償金の請求をしたら良いのかが問題となります。
交通事故で、加害者が賠償責任を負うのは、交通事故が「不法行為」となるためです。
不法行為とは、違法な行動によって相手(被害者)に迷惑をかけること、と理解しておくと良いです。
交通事故は、過失によって相手にケガをさせるなどの損害を与えているため、加害者には不法行為が成立します。
そこで、未成年者が加害者の場合でも、「不法行為」が成立するならば、本人に対して賠償金の請求をすることができることになります。
2.責任能力とは
それでは、未成年者には不法行為が成立するのでしょうか?
ここで問題になるのは、未成年者の年齢です。
民法において、不法行為の責任を負うにはそれなりに成熟していなければいけないという考え方があります。
まったく事理の弁識ができないような小さな子どもや赤ちゃんなどには不法行為が成立しないということです。
このように、不法行為責任を負うことができる能力のことを、「責任能力」と言います。
責任能力は、だいたい12歳~13歳くらいの子どもの知能があったら認められると考えられています。
そこで、加害者が12歳~13歳以上だったら、相手が未成年でも、本人が事故の責任を負います。
だいたい、小学生までなら責任能力がなく、中学生以上なら本人が責任を負う、と考えると良いです。
3.責任能力がない場合
加害者が小学生以下ということは珍しいかも知れませんが、自転車事故などであれば十分に可能性があることです。
特に、自転車事故では相手が保険に入っていないことも多いので、本人に対する請求が問題になりやすいでしょう。
事故の加害者が小学生以下で、加害者本人が事故の責任を負わない場合、被害者は誰に賠償金の請求をしたら良いのでしょうか?
この場合、「監督者」が責任を負います(民法714条)。監督者とは、責任能力の無い「責任無能力者」を監督すべき立場にある人です。
子どもの監督者は、通常親です。そこで、小学生以下の子どもが交通事故を起こしたとき、被害者は相手の親に対して賠償金の請求をすることができます。
このとき請求できる賠償金の範囲は、一般の保険会社が対応する場合と同じであり、治療費や休業損害、慰謝料や逸失利益など、すべての損害賠償を請求することができます。
4.責任能力がある場合
それでは、加害者である未成年者に責任能力がある場合には、未成年者にしか賠償金の請求ができないのでしょうか?
相手が中学生などの子どもの場合、本人に請求をしてもほとんど資力がないことが多く、充分な支払いを受けることができません。
そこで、本人以外の資力のある第三者に請求をする必要があります。
4-1.親に請求できるのか?
加害者が子どもの場合、相手の親に請求することはできないのでしょうか?
小学生なら親に賠償金請求ができるのに、中学生になったら親は責任を負わない、というのは不合理だと感じる方も多いでしょう。
まず、法律上、監督者責任が発生するのは、加害者本人が責任無能力者だった場合のみです。
そこで、加害者が13歳を超えていて責任能力があると認められる場合、親には監督者責任が発生することはありません。
しかし、親が子どもを適切に監督しなかったことにより、交通事故の結果に直接つながったというようなケースでは、親自身に不法行為が成立して、親が賠償責任を負う、と考えられています。
つまり、親が子どもを放置しすぎていたので、子どもによって引き起こされた交通事故が直接親の責任になると言える場合には、親自身が事故を引き起こしたのと同じなので、親が責任を負う、ということです。
たとえば、親が子どもと同居していて、子どもが無免許で勝手に車を乗り回して危険な運転をしていると知っているのに、放置していたというようなケースなどで、親自身に不法行為が成立する可能性があります。
4-2.車の所有者に請求できるケース
加害者本人である子どもに責任能力があってもなくても、車の所有者に対して損害賠償請求ができるケースがあります。
たとえば、子どもが友人の車を借りて乗り回しているときに事故を起こしたケースでは、その友人に対して賠償金の請求ができる、ということです。
これは、「運行供用者責任」という種類の責任が発生するからです。
運行供用者責任などと言われても、なじみがない方も多いでしょう。
これは、「自動車損害賠償保障法(自賠責法)」3条において定められている責任です。
車の運行を支配し、それによって利益を得ている人が責任を負うべきとするもので、具体的には「運行利益」と「運行支配」があるときに成立します。
運行利益とは、車の運行によって利益を得ていることです。
運行支配とは、車の運転をコントロールできる立場にあったということです。
そして、車の所有者は、通常運行利益も運行支配もあると考えられています。
そこで、未成年者が他人の車を運転していて事故を起こしたら、車の所有者には運行供用者責任が発生して、責任を問うことができるのです。
運行供用者責任が発生するパターンとしては、以下のような例があります。
- 未成年者が友人や知人から車を借りて運転していた
所有者である友人や知人に運行供用者責任が発生します。 - 未成年者が友人と一緒に車に乗り、友人の親の車を運転していた
所有者である友人の親に運行供用者責任が発生します。 - 未成年者が親名義の車を運転していた
未成年者の親に運行供用者責任が発生します。親に監督者責任が発生する場合、親はどちらの責任によっても賠償義務を負うことになります。 - 未成年者が、勤務先の名義の車を運転していた
この場合、車の所有者である未成年者の勤務先会社が運行供用者責任を負います。業務中であってもなくても責任が発生します。 - 未成年者がレンタカーを運転していた
レンタカーの場合、車の名義はレンタカー会社なので、レンタカー会社が責任を負います。
ただし、未成年者が返却期限を過ぎても車を返さずに、勝手に運転を続けていた場合などには、レンタカー会社には責任が発生しない可能性があります。
- 加害者本人が何歳でも成立する
運行供用者責任は、加害者本人が責任能力者であってもなくても成立するので、相手が何歳でも義務者に賠償請求することができます。
このように、未成年者が事故を起こしたとき、その車の「所有名義が誰になっているか」を調べると、請求先が広がって賠償金の支払いを受けやすくなる可能性があるので、検討してみましょう。
4-3.相手の勤務先に請求できるケース
未成年者が事故を起こしたとき、それが業務中の事故であれば、相手の勤務先に責任追及できる可能性があります。
未成年者であっても中卒や高卒で就職していることはありますし、アルバイトをしていることもあるでしょう。
たとえば、新聞配達でバイクに乗っているかもしれませんし、ピザ屋の宅配のバイトをしていることもあります。
このように、業務中の事故の場合、雇っている会社が「使用者責任」という責任を負います。
使用者責任は、従業員が業務の執行の際に不法行為を起こしたとき、雇用者が不法行為責任を負うというものです。
この場合、従業員が未成年かどうかは問題になりません。
また、使用者責任は車の名義に関係なく発生するものです。
たとえば、未成年者が自分や自分の親の車を仕事に使っていた場合であっても、仕事に関連して事故を起こしたら、勤務先に使用者責任を追及することができます。
使用者責任が発生するケースをまとめます。
- 相手が仕事中に事故を起こした場合
使用者責任が発生するのは、加害者が業務の執行中に交通事故を起こした場合に限られます。私的な場面での交通事故では、勤務先は責任を負いません。 - 相手が何歳でも成立する
使用者責任は、加害者本人の年齢に無関係に成立します。 - 業務中であれば、未成年者のマイカーでも成立する
運行供用者責任の場合、相手が運転していた車が他人名義である必要がありますが、使用者責任は「業務中の事故」である限り、車の名義に関係なく成立します。
4-4.共同不法行為者に請求できるケース
もう1つ、知っておくと役立つのが「共同不法行為」という考え方です。
今回は、いろいろと法律的な難しい言葉が出てくるので、頭が混乱しそうかもしれませんが、これが最後なので我慢して聞いて下さいね。
共同不法行為というのは、2人以上の人が共同して1つの不法行為を行うことです。
不法行為を助長したり手助けしたり、そそのかした場合なども共同不法行為になります。
交通事故の場合、たとえば、運転者が飲酒していると知っているのに、止めずにあえて車を運転させた場合や、運転者に発作などの危険な持病があるのに運転させた場合、無免許と知っていながら運転させた場合などで成立します。
また、事故で運ばれた先の病院で医療ミスがあり、被害者の症状が悪化したり死亡したりした場合には、医師や病院も共同不法行為者になると考えられています。
共同不法行為者は、運転していた本人と同じだけの責任を負うので、未成年者に資力がなくて支払いを受けられないときには、危険な運転を助長した共同不法行為者に賠償金を請求することが有効なケースがあります。
共同不法行為が成立するケース
- 未成年者の友人や雇用者が、飲酒していると知っていながら運転させていた
飲酒していると知りながら運転をさせた友人や雇用者その他の人に不法行為が成立します。 - 未成年者の友人や雇用者が、無免許と知っていながら運転させていた
無免許と知っていた友人や雇用者その他の人に不法行為が成立します。 - 未成年者の恋人が、助手席から運転を邪魔していた
運転を邪魔していた恋人に不法行為が成立します。 - 搬送された先の病院で医療過誤にあった
病院の医師に不法行為が成立します。
5.請求権が競合する場合の考え方
以上のように、未成年者による事故の場合、いろいろな請求が競合する可能性があります。
この場合、誰にいくらずつ請求すべきかが問題になります。
5-1.複数の人が責任を負う場合の請求割合は?
たとえば、未成年者と親、未成年者と雇用者、友人、恋人、医師など、いろいろな人が同時に責任を負うことがありますが、この場合、誰にいくらずつ請求したら良いのでしょうか?
複数の人が同時に責任を負う場合、被害者は、誰に対しても全額の請求をすることができます。
たとえば未成年者と友人に責任が発生するとき、被害者は未成年者から全額の支払いを受けてもかまいませんし、友人から全額の支払いを受けてもかまいません。
半額ずつ回収しても、3分の1と3分の2ずつ回収するのも自由です。
支払いを受けやすい方法で請求すると良いです。
5-2.複数の責任が成立する場合の考え方は?
次に、1人の人に複数の種類の責任が成立することがあります。
たとえば、親に監督者責任と運行供用者責任の両方が成立することもありますし、使用者に運行供用者責任と使用者責任の両方が成立することもあります。
友人にも、運行供用者責任と共同不法行為責任の両方が成立することがあるでしょう。
このような場合、どの請求原因によって請求したら良いのでしょうか?
まず、どの請求権による場合でも、請求できる賠償金の範囲は同じです。
運行供用者責任を選んだから賠償金が減った、などということにはならないので、心配は要りません。
複数の請求原因がある場合、どの理由を用いるのも被害者の自由ですから、最も立証し安物を選ぶのが良いです。
そして、一般的には、運行供用者責任は、他の不法行為責任よりも立証責任が軽減されています。
そこで、運行供用者責任が成立する場合には、それにもとづいて請求するのが良いでしょう。
また、実際に裁判を起こす場合には「まずは〇〇責任、それが成立しない場合は〇〇責任」とか「〇〇責任または〇〇責任にもとづいて」など、予備的や選択的に請求をすることもできるので、ここはさほど心配する必要はありません。
まとめ
以上のように、未成年者が加害者の場合、通常の事故とは異なるさまざまな問題点があります。
まずは誰が損害賠償を負うのかという問題がありますし、未成年者自身が責任を負うとしても、実際にはお金がないことが多いでしょうから、支払いを受けられないのではないか?という問題もあります。
未成年者が相手の事故で、保険が適用されないケースでは、確実に支払をしてくれる相手を見つけて賠償金請求をしなければなりません。
たとえば、相手の親や車の所有者、雇用者などに賠償金の支払をしてもらえる可能性があります。
このような適切な請求相手は、自分では適切に探せないことがありますし、相手が保険会社でない場合には、示談交渉も困難になりがちです。
被害者1人で対応することが難しいなら、まずは交通事故問題に強い弁護士に相談してみることをおすすめします。
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